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もりやま歯科の物語part2

3年を経て2度目のリニューアル

 

2005年12月に、秋田の森山広之先生からお電話をいただきました。3年前にリニューアルした医院を拡張したいので相談にのってほしいというご依頼です。秋田県男鹿市のもりやま歯科医院は、出張相談の依頼を受けてお伺いし、その後リニューアル設計をさせていただいた歯科医院です。
森山先生は毎月数回上京されて、いろいろなセミナーや研究会に出席されています。その合間に打合せをさせていただきました。3年ぶりにお会いして、まず驚いたのは、以前より若返っていることです。少しシェイプアップされたそうですが、それ以上に印象が若くフレッシュに見えます。お話を伺ってその秘密が判りました。3年前に比べて、ますます前向きに歯科医療に取り組んでいらっしゃるのです。
3年前のリニューアルの前はユニットが4台で、ドクターは先生がお一人でした。予防に力を入れるために、主に衛生士さんが使うためのユニットを2台増やしたいというご要望でした。
それが今ではドクターが3人、技工士さんや衛生士さん、助手の方も増えて、全部で21名の体制になっているとのことです。
設計をさせていただいた歯科医院が繁栄しているのを拝見するのはうれしい限りです。それは、先生をはじめとしたスタッフの皆さんの意識の持ち方や努力の成果であることはもちろんですが、インテリアがいくばくかでもきっかけを作るお手伝いできたのであれば、私達がめざすことが実現できたことになるからです。

インテリアの役割

 

わずか3年で、2回目のリニューアルに取り組むようになったことに、インテリアが果たした役割があるとすれば、2つ考えることができると思います。
1つはリニューアルによって患者さんが気持ちよく過ごせるようになることがあげられます。それによって患者さんが増えたかもしれません。しかしそれはリニューアルの効果のほんの一部でしかないでしょう。
もっと大きな力となったのは、インテリアが先生やスタッフの皆さんの意識を変えるお手伝いができたのではないかということです。あこがれの制服に袖を通すと、身も心も引き締まり、やる気が沸いてくるということがあります。インテリアにも同じことが言えるのではないでしょうか。いろいろな歯科医院を拝見していると、インテリアがすっきりとしている医院では、スタッフの皆さんもきびきびと働いて、きれいに見えることがよくあります。誇りに思えるようなインテリアであれば、そこで働く皆さんも、仕事に対する意識が変わってくるのではないでしょうか。
  今回のリニューアルは、ユニットをさらに2台増やして特別診察室を作り、カウンセリング室も作ることが目的です。森山先生が日々習得されている医療技術をもっと効果的に実践したいというご希望です。また、人数が増えたスタッフのための部屋も充実させたいとのご要望です。2階を全面的にリニューアルして、更衣室などの他、20人以上が収容できる研修室を設置することになりました。スタッフの皆さんにも勉強していただき、医院全体の能力アップを図りたいとのご希望です。
これはスタッフの皆さんにとっても貴重な勉強の機会を持つことができ、自らのスキルアップになるよい機会だと思います。この森山先生のお気持ちがスタッフの皆さんにも伝わり、医院全体がやる気にあふれるようになることが、今回のリニューアルの本当の目的ではないかと考えています。

要望を伺うために

 

リニューアルの打合せは、最初のうち、上京された森山先生と進めました。そのうちに3年前のリニューアル以降、いろいろな機器が増えて手狭になったり、使っているうちに変えたほうがよいという要望が、スタッフの皆さんから出ていることが判りました。通常、私達はそのような場合、ワークショップを開催してスタッフの皆さんの意見を吸い上げるようにするのですが、今回は遠方ということもあり、別の方法にすることにしました。
もりやま歯科ではスタッフの皆さんが相談して要望をとりまとめファイルを出してくださいました。ファイルには、部屋ごとに写真やイラスト入りでいろいろな要望や問題点、提案が書かれています。忙しい中、これだけの資料をまとめるのは大変だったと思います。これらの資料は私達にとって貴重な資料となっています。設計したものに対する生の意見をまとめたものだからです。
このファイルに書かれていることをもとに、スタッフのみなさんと細かいことをつめていくことができました。森山先生とは全体の枠組み的な話をつめていき、細かいところについては確認するだけで済ませることができました。効率的な打合せができたと思います。

打合せの往復書簡

 

さて、スタッフの皆さんとの打合せiには、メールとFAXが活躍しました。最初に出された意見を出発点として、設計をしながらできることは了承し、別の方法が考えられることについては、考え方を説明して理解を求め、協議が必要なことについては質問し……、ということを書面でやり取りしたのです。これは、通常の会話による打合せよりも、考えをまとめることができ、また記録に残るという意味でよい方法だと思いました。
何回かのやり取りによって、かなり細かいところまで内容を煮詰めることができました。しかし、それだけで十分かというとそうではありません。直接話会うことによって、それまで出ていなかった意見や解決方法が出てくることもあります。また、書面にはなかなか出てこない本音も聞いておく必要があります。設計が終了した段階で秋田にお邪魔してスタッフの皆さんとじっくり話し合ったのはその意味でよかったと思います。
要望とは、改めて考えて出てくるものだけではありません。使っているうちにふと気づくことや、昼休みに雑談をしていて気づくこともあります。また、工事がはじまって、実物を見て初めて判ることもたくさんあります。それらの要望に対しても、できるだけ柔軟に対応できるようにすることが必要となります。リニューアルはいつも時間との勝負になるので、なかなか臨機応変の対応が出来ない場合が多いのですが、今回は工務店の協力もいただき、密度の濃いコミュニケーションと、それを反映させた工事が出来たのではないかと思います。

患者さん向けのスペース

 

リニューアルの難しいところは、既存の建物の制約を大きく受けるということです。最も大きな制約は建物の構造。既存の柱を取りたくても取れない場合や、取るためには補強が必要になる場合などがあります。今回は、既存の建物を建築し、前回のリニューアルもやった工務店が工事を行なったので、相談しながら設計を進めることができました。
今回のリニューアルの1つの目的は1階の患者さん向けのスペースの充実です。患者さんがよりリラックスして診察を待ち、カウンセリングを受け、治療を受けられるように配慮しています。

土足で入る玄関

 

今回のリニューアルで、医院全体を土足にすることにしました。3年前のリニューアルの時に、玄関には殺菌灯を設置したスリッパ入れと大きな下足入れを設置したのですが、下足入れはほとんど利用されず、土間が靴でいっぱいになってしまっていました。そこで、玄関スペースを有効に使うことと靴を脱ぐ手間を軽減するために土足にしました。もともと床は土足にしてもよいように、固いクリ材の無垢のフローリングを使っていましたので問題なく移行することができます。泥の持込に対しては、大きな靴拭きマットとこまめの清掃で対応することにしました。下足入れがあったところには椅子を置くことができました。

待合室の拡張

 

待合室はいつも患者さんであふれていました。そこで、スタッフ用の入口部分を改造して待合室を広げ、4人分の椅子を増やしました。玄関と合わせると8人分増えたことになります。以前は和室がありましたが、利用効率が悪いので取りやめました。待合室は細長く奥行きの深い空間となりました。そこで、一番奥の天井は明かり天井として、閉塞感が少なくなるように工夫しています。

収納力を高めた受付

 

受付は、3年の間にいろいろな機器が増え、またカルテ棚も不足していました。そこで、消毒コーナーを移設することにより受付を拡張しました。カルテ棚を増やし、受付内に2人が座れるようにしました。奥のスペースでパソコンを使った作業ができる場所を確保しています。

カウンセリング室

 

カウンセリング室を独立した部屋にしました。このカウンセリング室には顕微鏡を設置して、口腔内の細菌を見ていただくことができます。これまでは診察室の片隅でカウンセリングを行っていましたが、患者さんのプライバシーを考え、また、落ち着いて考えることが出来るようにしました。自費治療の説明もここで行います。木質の壁材として高級感を出してします。

特別診察室

 

以前、技工室だったところを2つの特別診察室にしました。特に片方の部屋は手術ができるように独立しています。どちらの部屋もこれまでの診察室よりはイメージが高級になるようにしています。

視線を意識して

 

 今回のリニューアルでは患者さんの視線を意識した小技もいくつか使っています。
待合室の出窓は医院のショーケースとなるようにお花やオブジェを置きました。夜間ライトアップできるようにコンセントも設置しています。
玄関などの壁にはガラスタイルを貼り、壁面のアクセントに。これは壁の汚れ防止も兼ねています。
診察中の患者さんが横になった時に退屈しないようにパーティションのフレームにモビールを付けました。風でゆらゆら揺れるモビールは不規則な動きをするので、見ていて飽きません。

スタッフ向けのスペース

 

今回のリニューアルのもう1つの目的は、2階のスタッフ用のスペースの充実です。これまで2階は使われていない部屋が大部分でした。そこで全面的にリニューアルを行い、スタッフの皆さん向けスペースを中心に整備を行うことにしました。必要な部屋を確保するため、リニューアルは柱や梁の構造まで及びました。

見える研修室

 

以前は10畳ほどの応接室が休憩室に使われていました。近年、スタッフ向けの研修や医院内での打合せが多くなり、それも応接室で行っていました。しかし、人数が増えて狭くなったので今回のリニューアルで大きくすることにしました。面積は倍の20畳ほどにしました。
場所はいろいろと検討しましたが、道路から見える東側にしました。窓が大きく一番気持ちのよい部屋だからです。同時に、道路から見えるので研修風景が医院のPRになると考えたからです。冬の厳冬期以外はカーテンを引かないで外から見えるようにしています。
なお、研修室は昼休みには休憩室となります。

技工室とファーネス室

 

1 1階にあった技工室は2階に移設しました。以前は南側で直射日光がまぶしくブラインドを閉めっぱなしにしていました。そこで今回は北側に配置しています。利用できる家具は残しながら、技工士さんが使いやすいように2列の配置としました。また、以前から技工士さんが気になっていたということで、ファーネスなど有害ガスが出る機器は別室に設置し、なおかつ換気フードをつけて、ガスが室内に漏れないように配慮しています。

滅菌室

 

これまで1階の消毒コーナーで行っていた滅菌作業を独立して行うために滅菌室を設置しました。全自動の洗濯乾燥機も設置してタオルなどの洗濯もできるようにしました。

将来にも備える収納

 

増え続ける材料や薬品、商品などを整理するために倉庫を設置しました。これとは別にカルテをまとめて収納できる棚や訪問診療用の機器スペースも設置しています。将来の増加も見込んだ十分なスペースを確保しています。

スキルとモチベーションのアップ

 

今回のリニューアルでは、スタッフの皆さんの研修と休憩のスペースを一番よい場所に設置しました。様々な研修を受けることは、忙しい仕事の合間にやることを考えると負担も大きいと思います。しかし、そういう努力の結果が、もりやま歯科医院の技術力の向上につながるだけでなく、個々のスタッフの皆さんのスキルアップにつながるのですから、そのチャンスを与えられたスタッフの皆さんは幸せだと思います。
スタッフの皆さんが働きやすい環境を整えることが、そのモチベーションアップにつながることを期待されて、森山先生は今回、3年目のリニューアルに取り組んだのだと思います。ただ単に、医院の内装を変えるだけではなく、スタッフの意識も含めて医院全体を変えたいという気持ちをリニューアルで表しているのだと感じました。

変わるものと変わらないもの

 

前回と今回のリニューアルで、医院全体が新しくなりました。工事費も合わせると新築に匹敵するほどの金額になってしまいました。最初からこうなると判っていれば新築も考えることができたでしょう。しかし3年前にはここまで発展するとは、森山先生も想定していなかったのだと思います。リニューアルは様々な制約の中で行うので、新築に比べれば行き届かないところも多々あります。しかしその上で、新築の方がよかったかというと、必ずしもそうではないと思います。
2回のリニューアルで、もりやま歯科医院は大きく変わりました。森山先生の意識も変わったと思いますし、スタッフの皆さんも変わりました。しかし変わらないものもあります。それは信頼感、安心感だと思います。建物の外観は、色こそ変えたものの、そのままとなっています。そこにそのままであること。それが信頼につながっているように思われるのです。変わらない信頼感と安心感。その上で最新の治療を提供すること。もりやま歯科医院はこの変わるものと変わらないものをバランスよく実現させていると思います。


株式会社コムネット Together 連載 「いきたくなる歯科医院」より転載

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